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熊本地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決 1958年3月18日

鹿屋市向江町七千百四十七番地

原告

武石一志

熊本市花畑町

被告

熊本国税局長

吉田鹿之助

右指定代理人

熊本地方法務局法務事務官

新盛東太郎

右当事者間の昭和三十三年(行)第三号登録税法による登記価格の認定に対する審査請求却下取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告熊本国税局長が昭和三十二年五月二日原告に対しなした原告申請にかかる鹿児島地方法務局鹿屋支局登記官吏の登録税法による登記価格の認定に対する審査の請求を却下する旨の決定は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、

「原告は昭和二十八年九月二十六日訴外松元清二からその所有にかかる鹿屋市向江町七千百十番地宅地百十九坪五合八勺及び同町七千百十一番地宅地五十八坪七合三勺の二筆の内百六坪を坪当り金千三百円で買受け、これが所有権移転登記手続にとりかかろうとした矢先、同年十月一日右松元清二の前主訴外久留静が、松元清二に対し右二筆の宅地の譲渡その他一切の処分を禁止する旨の仮処分を鹿児島地方裁判所鹿屋支部に申請し、同日右趣旨の仮処分決定が発せられたため、原告はやむなく松元清二と共に右仮処分決定に従い、同人から買受けた前記宅地百六坪の所有権移転登記申請を差控えた。

しかして、右久留静は仮処分と同時に松元清二を相手取り前記二筆の宅地の所有権移転登記抹消請求の本訴を同裁判所支部に提起したので、原告は松元清二の補助参加人として久留静と争つた末、昭和三十一年十二月十九日和解が成立し、久留静は原告が松元清二から買受けた前記宅地百六坪を原告の所有と認め、右百六坪の内八坪五合三勺は右和解において久留静所有の同坪数の宅地と交換し、前記仮処分を取下げた。

そこで原告は、同年十二月二十七日鹿児島地方法務局鹿屋支局登記官吏に対し前記宅地百六坪について、松元清二から買受けた価格である坪当り金千三百円を登録税法による登記価格として所有権移転登記の申請をしたところ、該登記官吏は、登記価格は登記申請時の評価によるべきであるとし、原告が申告した右坪当り金千三百円を不相当と認め、右宅地百六坪の登記価格を坪当り金四千円と認定し、即日口頭で原告にその旨を告知した。原告は一応右認定に従い登録税を納付し、同日所有権移転登記手続を了した。

しかしながら、原告松元清二から買受けた前記宅地百六坪につき原告において買受けた当時所有権移転登記ができずこれが遅延したのは、前に述べたように、ひとえに久留静の申請により発せられた処分禁止の仮処分決定のためであり、原告は右仮処分決定に忠実に従つたものであつて原告側に何らの懈怠もあつたわけではないので、登記官吏は当然右宅地の坪数から原告が後に久留静所有の宅地と交換した八坪五合三勺を差引いた残余の九十七坪四合七勺についてはその登記価格を、原告が松元清二から買受けた価格である坪当り金千三百円と認定すべきであり、もし右金千三百円が相当でないとすれば買受け当日たる昭和二十八年九月二十六日の右宅地の評価によつて坪当り金二千二百円と認定すべきであつたにもかかわらず、坪当り金四千円と認定したのは、明らかに違法な処分である。

よつて原告は、登記官吏の右登記価格の認定を違法として昭和三十二年二月二十日鹿児島地方法務局鹿屋支局を経由し被告熊本国税局長に対し審査の請求をしたのであるが、被告熊本国税局長は同年五月二日、右審査の請求を、登記官吏が前記宅地の登記価格を認定しこれを原告に告知した日から一箇月を経過した後になされた不適法な請求であるとして却下する旨の決定をなし、原告は遅くとも同月五日右却下決定の通知を受けた。

しかしながら、原告は前記登記官吏から口頭で本件宅地の登記価格の認定の告知を受けた際、右認定に不服の旨を申し立てていたのであるから、該登記官吏は右認定に対する審査の請求が同日から一箇月以内になされるべきであることを原告に告げるべき職務上の義務があるにもかかわらず、これを告げなかつたため、原告は審査の請求を右一箇月の期間内になすべきであることを知らず、その期間を徒過したものである。したがつて原告が本件審査の請求を右期間内になしえなかつたのは、原告の責に帰すべき事由によるものではなく、専ら登記官吏の職務上の義務違背によるものであるから、右期間内になされなかつたことのみを理由として原告の審査の請求を却下した被告熊本国税局長の決定は明らかに違法な処分といわなければならない。

よつて被告熊本国税局長の右違法な却下決定の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

と陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、

「本件訴提起の日が、被告主張のように、原告において被告熊本国税局長の審査の請求却下決定の通知を受けた日から三箇月の出訴期間を経過した後であることは認める。しかし、原告は本件訴に先立ち出訴期間内である昭和三十二年五月二十一月熊本地方裁判所に対し本件訴と同一の訴を提起していたのであるから、この訴が後に民事訴訟法第二百三十八条により取下げありたるものとみなされたとしても、裁判所は適法な期間内に前訴が提起されていた事情を斟酌し三箇月の出訴期間の延長を認むべきであつて本件訴は何ら不適法な訴ではない。」

と述べた。

被告指定代理人は、本案前の抗弁として、主文同旨の判決を求め、「国税局長のなした審査の決定の取消を求める訴は、原則としてその処分の通知を受けた日から三箇月以内にこれを提起しなければならないことは、国税徴収法第三十一条の四第二項により明らかなところ、鹿児島地方法務局鹿屋支局登記官吏のなした登録税法により登記価格の認定処分に対する原告の本件審査の請求につき、被告熊本国税局長は昭和三十二年五月二日これを却下する決定をなし、その旨の通知書は同日書留郵便をもつて原告宛発送したから、遅くとも同月五日原告方に到達している。したがつて、本件訴が右出訴期間経過後に提起されたものであることは明白であるから、本件訴は不適法として却下されるべきである。もつとも、原告は本件訴訟提起前出訴期間内に本件訴と同一の訴を熊本地方裁判所に提起していたが、同訴はその後民事訴訟法第二百三十八条により取下げありたるものとみなされたから、本訴については何ら考慮に値しないものである。」

と述べ、さらに本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の請求原因事実中、原告がその主張の宅地を訴外松元清二から買受けたこと、その主張のように右宅地について鹿児島地方法務局鹿屋支局登記官吏より登記価格の認定、告知を受け、該認定に従い登録税を納付し所有権移転登記手続を了したこと、その主張のように昭和三十二年二月二十日同法務局支局を経由し被告熊本国税局長に対し右登記価格の認定につき審査の請求をなしたこと、および被告熊本国税局長が同年五月二日右審査の請求を不適法として却下しその通知を原告に対しなしたことは認めるが、その余の事実は知らない。本件登記官吏がなした登記価格の認定処分が違法であるとの点、登記官吏において原告に対し審査の請求が右認定処分告知の日から一箇月以内になされるべきことを告げるべき義務ありとの点、ならびに被告熊本国税局長がなした本件審査の請求を却下する旨の決定が違法であるとの点は、いずれもこれを争う。

登記官吏のなした登録税法による登記価格の認定処分に対する審査の請求は、国税徴収法第三十一条の三の規定により当該認定処分の告知を受けた日から一箇月以内にこれをなすことを要するにかかわらず、原告は昭和三十一年十二月二十七日本件登記官吏の登記価格の認定処分の告知を受けながら、昭和三十二年二月二十日これに対する審査の請求を被告熊本国税局長になしたものであることは、原告の自認するところであるから、本件審査の請求が右法定の期間を経過した後になされた不適法なものであることは明らかである。

したがつて、被告熊本国税局長が本件審査の請求を却下した決定は適法であるから、これが取消を求める原告の本訴請求は失当である。」

と述べた。

理由

被告の本案前の抗弁について按ずるに、国税徴収法第三十一条の四第二項によれば、国税局長がなした審査の決定の取消を求める訴は、該審査の請求をした者において審査の決定の通知を受けた日から三箇月以内にこれを提起しなければならないことは明らかである。

しかるに本件においては、鹿児島地方法務局鹿屋支局登記官吏が昭和三十一年十二月二十七日原告主張の宅地につきなした登録税法による登記価格の認定処分に対し、原告は昭和三十二年二月二十日同法務局支局を経由し被告熊本国税局長に審査の請求をなしたこと、被告熊本国税局長が期間経過の理由により同年五月二日右審査の請求を不適法として却下する旨の決定をなしたこと、および原告が遅くとも同月五日被告熊本国税局長より右決定の通知を受けたことは当事者間に争がないところ、原告が被告熊本国税局長の右却下決定の取消を求める本件訴を当裁判所に提起したのは、昭和三十三年一月十六日であること本件記録上明白である。

しからば、本件訴は右法定の出訴期間経過後に提起された不適法な訴であるといわなければならない。もつとも、原告のいうように原告が本件訴と同一の訴を出訴期間内である昭和三十二年五月二十一日当裁判所に提起したことは当裁判所に顕著であるが右訴(昭和三十二年(行)第三号事件)は同年十二月二十八日民事訴訟法第二百三十八条により取下げありたるものとみなされたこともまた当裁判所に顕著な事実である以上、その後出訴期間経過後に提出された本件訴が仮に前訴と同一請求原因に基くものであるにせよ不適法たるを免れないことは当然であつて、かかる場合は出訴期間の延長を認むべきであるとの原告の主張はとるわけにゆかない。

よつて原告の本件訴は不適法であるから、さらに本案について判断するまでもなくこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野憲雄 裁判官 今富滋 裁判官 吉永忠)

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